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円卓会議の趣旨

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各回の議事録

政策提言

政策提言

洋上風力発電と
地域・漁業の共生に
関する提言

平成24年2月

洋上風力発電と地域・漁業の共生に関する円卓会議

 

目次

概要

1.円卓会議について

2.洋上風力発電と地域・漁業の共生に関する提言

(1)洋上風力発電の一般的な環境影響について
(2)風力発電事業者と漁業関係者による共同事業化について
(3)漁業に配慮した洋上風力発電の設計について
(4)洋上風力発電のもたらす経済効果について
(5)洋上風力発電の観光資源としての活用について
(6)洋上風力発電による分散型エネルギーシステム、 スマートグリッドへの電力供給について

 

概要

1.円卓会議について

(1)概要

 洋上風力発電の導入における地域・漁業との共生の必要性は、内閣官房総合海洋政策本部による「海洋の開発・利用構想の推進に関する調査について」(平成21年公表)をはじめ、強く認識されている。しかし、洋上風力発電の地域・漁業との共生を目的とした政策措置は十分に進んでいるとは言いがたい状況にある。

 洋上風力発電の事業者、地域、漁業の関係者の間で互恵関係を構築することは、洋上風力発電の社会的便益最大化のためにも必要不可欠である。また、福島第一原子力発電所における原子力災害以降、再生可能エネルギー利用に対する期待も高まっていることから、その障壁となりうる調整のあり方を、可及的速やかに示す必要がある。

 円卓会議は、風力発電事業者、風力立地地域の行政担当者、漁業従事者が集まり、東京大学公共政策大学院による事務局運営のもと、国内における着床式洋上風力発電の事業化を想定しつつ、互恵関係をもたらす共生のアイディアについて検討し、政策提言として社会に提示するために発足した。また、技術面で現実的な検討を進めるため、専門家の助言を得ながら検討を進めた。

(2)会議の記録

 2011年 8月 2日 第1回円卓会議
 2011年11月16日 第2回円卓会議
 2011年11月22日 第3回円卓会議
 2012年 2月10日 第4回円卓会議(最終回)

(3)円卓会議の構成

円卓会議委員

茨城県神栖市役所企画部政策企画課 課長 榊原 利至
(株)ユーラスエナジーホールディングス 国内事業部長 高畠 哲
串木野市漁業協同組合 組合長 濵﨑 義文

(五十音順)

ご助言いただいた専門家※

(株)エイ・ワークス 赤崎まき子 代表取締役
東京大学生産技術研究所荻本研究室 池田裕一 特任准教授
(株)みずほコーポレート銀行産業調査部 大野真紀子 調査役
(社)海洋産業研究会 塩原泰 主席研究員  
環境省地球環境局地球温暖化対策課 平塚二朗 課長補佐
(社)海洋産業研究会 中原裕幸 常務理事  
鳥取大学工学部土木工学科 松原雄平 教授

(五十音順)

※第2回・第3回円卓会議で1時間のご講演・質疑応答をお願いし、本提言の検討にあたり、参考とさせていただきましたが、本提言の内容につきましては、上記専門家の先生方のご承認、ご支持などを確認しておりませんので、ご留意願います。

事務局

東京大学公共政策大学院 海洋政策教育・研究ユニット
松浦正浩研究室

 

2.洋上風力発電と地域・漁業の共生に関する提言

(1)洋上風力発電の一般的な環境影響について

 洋上風力発電事業が及ぼす可能性がある様々な環境上の問題について、事業者は、地域住民に対して真摯に対応すべきである。同時に、立地自治体の行政機関は、中立的な立場から、事業者と地域住民の間を仲介、調整する役目を果たすことが期待される。

 洋上風力発電に係る環境影響評価については、現在、政府内において検討が進められているとのことであるが、どのような検討をしているのかについて、その課題を含め、積極的に情報公開すべきである。

 立地自治体は、安全・安心を最優先に考える。環境影響評価制度に規定される事項に限らず、少なくとも20年以上先を見据えた将来の、洋上風力発電立地による環境上のメリット・デメリットについて理解する必要がある。また、立地自治体の行政機関は、関連法規制についての情報も必要としている。東日本大震災以降の価値観の変化もあり、自然エネルギーに対する地域住民の関心も高くなっているため、行政機関も説明責任を果たしていくことが求められてくる。政府もしくは然るべき組織に、その説明材料の提供を期待する。

(2)風力発電事業者と漁業関係者による共同事業化について

 洋上風力発電事業(特に着床式)の実施にあたっては、漁業権が設定された海域の一部を占有する可能性が高いほか、漁業の操業の妨げ、航行の危険となる可能性があることから、地元の漁業協同組合による合意が必要となる。互恵関係構築の手段として、洋上風力発電を民間事業者と漁業協同組合の共同事業化が考えられる。

 水産業協同組合法の規定により、電気事業を主目的とする法人に対する出資を通じ、漁業協同組合が自ら洋上風力発電事業に参画することは、同法第十一条において認められた漁協協同組合の事業に該当しないことから、難しいと考えられる。現状においては、漁業協同組合が洋上風力発電事業に関わる方法が、海面の占有等に対する補償として事業者の利益の一定割合を受け取るなどの、受け身な方法に限られてしまうことは、互恵関係の構築において障壁であると考える。漁業協同組合が洋上風力発電事業に積極的に参画できるよう、構造改革特区制度の活用や、関連法制度の改正が期待される。

 ただし、法制度等の問題が解決されたとしても、漁業協同組合における組合員の合意形成と意思決定の難しさ、洋上風力発電事業に関するノウハウのなさから、出資を行うという意思決定には時間を要するであろう。短期的に現実的な方法としては、漁業協同組合が、一部の海域の利用を事業者に容認する代わりに、利用料を支払ってもらう等の仕組みとなるだろう。

(3)漁業に配慮した洋上風力発電の設計について

 洋上風力発電の風車の基礎部分に、魚類を蝟集し資源量を増やす効果があることを明らかにすること、漁業施設と連携して設計することで、洋上風力発電事業と漁業との互恵関係を構築する可能性が考えられる。

 地域の特性に応じて漁業の操業形態は大きく異なるが、原則として、巻き網や底引き網等による操業が盛んに行われている海域において、洋上風力発電の立地によりそれらの操業に支障が生じる場合には、漁業権を有する漁業協同組合の立地への同意を得ることは難しいと考えられる。沿岸釣漁業やイカ釣り漁業が中心の海域であれば、比較的支障が少ないと考えられる。

 (社)海洋産業研究会による北欧事例調査によれば、施設運用開始後には、魚類の生息状況に少なくとも悪影響がみられないようではあるが、漁業者としては、資源量を増加させるいわゆる漁礁効果までを期待している。現状では、洋上風力発電の基礎部分による漁礁効果について科学的な知見が少ないようであるが、今後、漁礁効果との因果関係を明らかにする調査・研究が必要とされている。また、基礎部分あるいはその周囲に漁礁や藻場など生育環境を設置する技術的検討も必要とされている。ただし、漁礁効果等は、地域や海洋環境によって異なると考えられる点に注意する必要がある。

 洋上風力発電の基礎部分を漁業施設と連携して設計することについては、基礎に関してさらなる調査研究および実証実験が必要である。一方、洋上風力発電事業者による電気事業の運用において支障となる施設は設置することは難しい。具体的には、風車のメンテナンスが困難になる設備や、作業中の事故や風車の故障により漁業施設を破損した場合に大規模な補償問題に発展するような施設を設置することに、洋上風力発電事業者は同意しがたいと考えられる。よって、外すことのできない漁具や、船による風車への接近に支障が生じる施設は避け、養殖いかだ等の取りはずし可能な施設の設置等による互恵関係の構築について模索するとともに、安全性等に係る調査研究が今後必要である。

(4)洋上風力発電のもたらす経済効果について

 洋上風力発電の立地により、建設と運用それぞれに伴う経済効果が立地地域にもたらされれば、洋上風力発電立地と地元自治体との間に互恵関係を構築する可能性が考えられる。みずほコーポレート銀行よりご提供いただいたGlobal Wind Energy Councilのデータ分析結果によれば、2007年の欧州連合における発電単位あたり雇用者数は、風車の新規設置量に対して15.1人/MW、既存設置量に対しては0.40人/MWとされている。

 現実には、建設時には、洋上風力発電施設(風車および基礎)は、必ずしも立地地域には存在しない工場等において組み立て、建設された後、バージ等で運搬され、さらに特殊な台船等により設置されるため、立地地域における経済効果は限定的であると考えられる。また、風車等の工場立地についても、風車に対する定常的な需要が見込まれる必要があり、多くても100基前後の洋上風力発電立地のみを理由として工場が当該地域に立地することは考えがたい。工場立地による雇用創出を期待するのであれば、欧州および中国企業等との国際競争の中で、工場誘致を日本国全体として検討する必要がある。

 運用時における立地地域での雇用創出も考えられるが、たとえば100MW規模の比較的大規模な発電所であったとしても、上記欧州連合におけるデータを用いれば、保守・メンテナンス要員は30名程度で足りる(実際には、最新の大型風力発電機が導入され、風車の数はより少なく、効率化されるため、要員数もより少ないと考えられる)。また、修理等で必要な専門性の高い技術者は、必要とされる頻度と経済性を考えると、立地地域に常駐することはないだろう。よって、工場立地のような大規模な雇用創出や経済波及効果を期待すべきではない。

 ただし、メンテナンス作業に地元漁協の漁船等を傭船することで、小規模ではあるが漁業者への経済的メリットは考えられる。また、立地自治体には固定資産税、法人住民税(立地地域に新たに法人設置の場合)等の税収が期待されるほか、次項で述べるような観光資源としての活用が成功すれば、観光関連の雇用と経済効果は、若干期待できる。

 このように、立地自治体の規模において、洋上風力発電導入に伴う産業集積に対して大きな期待を抱くべきでなく、また雇用拡大等による経済効果も限定的と考えるべきであろう。むしろ、風力発電による経済効果を国内各地で享受するためには、風車に関連する工場立地(組立およびブレード等の部品)が日本国内に必要であり、そのためには、英国政府がすでに行っているように、日本政府が国策として、合計で数十GW規模の風力導入推進政策を打ち出す必要がある。また、みずほコーポレート銀行の分析によれば、日本国内での風車関連産業立地を前提とすれば、風力発電の大規模導入により、需要創出による関連産業への直接効果に加え、火力発電の燃料調達に伴う国富の流出を防ぐことで、日本国のGDP減少を抑止する効果があると考えられることから、数十GW規模の風力導入推進政策は政府として検討すべき課題であると考える。

(5)洋上風力発電の観光資源としての活用について

 自然エネルギーへの関心が高まっている現在、洋上風力発電を観光資源として活用し、地域への経済効果をもたらすことで、洋上風力発電立地と地元自治体との間に互恵関係を構築する可能性が考えられる。

 国内で風力発電が観光資源として活用されている事例として、大規模な発電所としては郡山布引高原風力発電所(2MW×33基、福島県)、小規模な発電施設としてはウィンドームたちかわ(100kW×3基、山形県)などがある。

 洋上風力発電を観光資源として活用するためには、他の観光資源とうまく組み合わせた観光ルートの一部として位置づける必要があり、洋上風力発電のみを目的とした大規模な入込客を期待することは難しいと考える。また、洋上風力発電事業者による自主的な観光客等向けのPR活動は期待すべきでない。観光資源としての活用にあたっては、立地自治体において、行政機関の担当部局に限らず、観光・地域振興に関心が高い者が中心となって自主的に、洋上風力発電の観光資源としての活用に向けた調整を先導する必要がある。

(6)洋上風力発電による分散型エネルギーシステム、
スマートグリッドへの電力供給について

 分散型エネルギーシステムやスマートグリッドを導入することで、洋上風力発電事業を中心とした電力供給が行われれば、立地地域にとって目に見える形でのメリットが洋上風力発電から得られるのではないかという考え方もある。

 しかし、分散型エネルギーシステムにおいて、洋上風力発電など出力変動を避けられない自然エネルギーを導入した場合、電力の安定供給のためには、火力発電など他の電源が必要となる。結果として、高コストのシステムとなる。洋上風力発電所については、大規模な電力グリッドに接続し、他地域の洋上風力発電所のほか、他の自然エネルギーによる変動を相互に補完することが期待される。

 技術的には、出力変動の影響を緩和するための仕組み(例えば、エネルギーマネジメントシステムや蓄電池)を導入することで、洋上風力発電等の自然エネルギーの導入が促進されるだろう。また、スマートグリッドの導入により、立地地域における電力供給に占める洋上風力発電所の貢献が可視化されることで、洋上風力発電所に対する地域住民の受容性が高まるだろう。