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各回の議事録

政策提言

第3回円卓会議 議事録
「技術的可能性について意見交換」

日時:2011年11月22日 午前9時~午後12時30分
会場:コンファレンススクエア エムプラス ミドル3会議室

第1部 専門家パネルからの情報提供と質疑応答

1.「風力発電の大規模導入がもたらす系統運用へのインパクト」
東京大学生産技術研究所荻本研究室 池田裕一特任准教授

 「風力発電の大規模導入がもたらす系統運用へのインパクト」について、池田裕一特任准教授よりご説明いただいた。池田特任准教授は電力系統がご専門ではないが、これまで(株)日立製作所の研究所や国際エネルギー機関で原子力やスマートグリッド等エネルギーに関する様々な分野の研究に携わってこられた。

  はじめに、欧州における風力発電の普及についてお話をいただいた。気候変動への対策として電力セクターでは再生可能エネルギーの普及が注目されているが、出力が自然条件によって大きく変動することが導入の課題となっている。ヨーロッパでは出力変動に上手く対応している例が幾つかある。アイルランドではスマートグリットの導入を進めており、リアルタイム安定解析や風力発電予測などのモデル化技術を使って、電力システム運用の高度化を実現している。デンマークでは、国際的な系統連系が風力発電普及の要となっている。国内での風力発電量が少ない時はノルウェーの水力発電による電力で需給均衡を保ち、国内での風力発電量が多い時は他国に電力を融通している。スペインでは再生可能エネルギーを監視・制御するために、再生可能エネルギー制御センターを設立した。これはオンラインで再生可能エネルギーを遠隔監視し、発電電力抑制を含む指令を発電事業者へ出すことで最大量の風力発電出力を系統連系するものである。ただし、日本と比較して、これら風力発電普及率の高い国の電力需要の規模が小さいことに注意が必要である。また、導入量の絶対値を見れば、ドイツ、スペイン以外の国と日本との間では大きな差はない。

  風力発電に対する取り組みの温度差は大きいと言える。一方イギリスは元来エネルギー自給率が高く再生可能エネルギーの比率が先進国中低かったが、北海での資源量が限られていることが分かったため、近年再生可能エネルギーを推進している。安定して強い風の吹く北海に多くの風力発電を導入しようとしている。2020年までに7,000基以上の洋上風力タービンを設置する計画であり、現在ラウンド1と2が終わり、これからラウンド3が始まるところである。

  続いて、日本の風力発電の可能性についてお話をいただいた。日本は東北の山岳部と洋上で風況が良い。日本は海洋の水深が深いこと、安全保障の観点から近隣諸国に国際連系線を引くのは現実的でないこと、また、漁業権についてイギリスでは漁業権の補償や複雑な利害調整の仲介を手がけるCrown Estateという調整役が存在するのに対し、日本には調整役が存在しないことなど、欧州に比べて不利な点が多いが、課題を解決して普及を図ることができる。

  最後に、風力の地産地消の妥当性について、モデルを用いて検討した結果をご紹介いただいた。風力発電所の数が増えるにつれ変動係数は小さくなるため、風力の地産地消は原理的には高コストであり、複数箇所の風力発電を連系して使うとコストが安くすむ。スマートグリッドは、地産地消を可能にする解決策の一つである。電力会社は前日に気象庁で予測された日照量等をもとに翌日の需給計画を作り、電力価格や使う発電所を決める。家庭にあるHEMSなどのエネルギーマネジメント装置は、電力価格の情報を受け取り、普段使う電力量をもとに家庭での使用パターンを考える。これら各家庭の使用予定を合算したものを見て電力会社が翌日の計画を作り直す。このプロセスを踏むことで、電力需給能力が向上し、出力変動を幾分か吸収することができる。またデマンドレスポンス(需要側が出された価格によって需要を変えること)によって、風力発電の出力変動に対応するための稼働火力発電ユニット数の増加を抑制することができる。

  基本的に地産地消は不利だが、スマートグリッドでデマンドレスポンスを導入すれば、風力や太陽光等出力変動の大きい電力に対しある程度対応可能である。コストとの関連はこれから検証が必要である。また離島だけでグリッドを動かすのは不利なため、やはり他の地域と連系することが望ましい。供給側は風力でどれだけ発電されているかを常にモニターし、需要側もスマートメーターによりどれだけの電気を使っているか監視することで、風力による発電量が少ない場合は系統を通して電力を購入、多い場合は系統を通して他に供給することができる。

  質疑応答では、スマートグリッドの導入可能性、蓄電池の利用によるさらなる需給調整の可能性などについて議論し、風力発電等の再生可能エネルギーを活用する場合、小規模で独立した形の電力システムよりも、系統連繋のほうが経済面でも技術的にも安定化を図る意味でメリットが大きいことを委員が確認した。

2.「経済的側面から見た風力発電の必要性とポテンシャル」
(株)みずほコーポレート銀行産業調査部 大野真紀子様

 「経済的側面から見た風力発電の必要性とポテンシャル」について、みずほコーポレート銀行産業調査部大野真紀子様より風力発電で震災後の東北を復興できないかという観点からご説明いただいた。

  まず、エネルギー政策の見直しと風力発電推進を提言する背景についてご説明いただいた。東北の震災からの復興や原発事故への対応という観点から、風力発電の導入期待が高まっている。また、これまでのエネルギー政策は原発を推進してきたが、原発事故の後エネルギー政策の見直しが必要とされている。

  エネルギー基本政策の見直しによる経済影響を試算するためのシナリオとして、大野様は現行計画と脱原発の間をとった原発共存シナリオをご紹介された。シナリオでは、福島第一原発のみ廃炉とし、新しい原発のうち既に着工している三基は稼働させ、稼働率は現行水準、定期点検の長期化はせず、40年で廃炉という想定を置いている。ここで電力が2,000億kWh不足することになるが、それを火力と再生可能エネルギーでそれぞれ半分ずつ補うと想定している。また、再生可能エネルギーとして、太陽光と風力を導入するが、太陽光については既存の政策においてすでに導入目標が設定されており、これ以上の上乗せは難しいという想定に基づき、風力発電をより一層活用する。これまで安定的で経済的な電力供給と電力システム関連の産業振興という二つの目的の最適解と思われていた原子力発電であったが、3.11以降変化が見られ、新しい最適解を、エネルギー政策と産業振興政策双方の観点から考える必要がある。

  次に、風力発電の産業構造と東北復興プロジェクトについてご説明いただいた。日本の太陽光産業は世界上位だが日本の風力産業は世界下位である。一方、風力産業は産業振興政策として育てていく余地があるとも言える。コストが安いため世界的にまずは風力からと考えられているが、研究開発投資は将来を考え世界的に太陽光が半分以上であり、トランジションとしての風力が注目されている。日本でも短期的に原発を補うには風力が有望ではないか。風車は自動車産業に匹敵する1万点の部品から構成され、風力発電産業は裾野が広い。EUにおける雇用効果は新規設置容1MWあたり15.1人で、雇用創出効果が期待される。部品については日本企業が健闘(世界の軸受の半分は日本のメーカー)しており、更に自動車部品のメーカーが多いことから日本で風車産業を育てる土壌はある。風力の導入量シェアは中国が多く、母国市場が育っているところはメーカーも育っていると言える。日本は導入量が少ないがゆえにメーカーも育っておらず、市場を育てる必要がある。太陽光と異なり、風車は大きいため風力発電所の近くに風車の工場が立地しうるが、この点からも地域への産業創出効果があると言える。日本では東北地方の導入ポテンシャルが高く、既に東北に自動車や電子部品の集積があること、首都圏向けの送電網が既にあることを考慮すると、風力発電導入には東北が適している。

  続いて、風力発電の本格導入に伴う経済効果についてご説明いただいた。まずコストの内訳を比較すると、火力は原料輸入するため国富が海外へ逃げてしまうのに対し、風車は国産であればGDPにはプラスの影響がある。先程のシナリオでの2,000億kWを全て火力で代替した場合累積で2040年までにGDPが49兆円のマイナスとなるのに対し、半分を火力(風力の8割を国産と仮定)で補った場合、計14兆円のマイナス影響にとどまる。一方国産化に失敗し風力の2割のみが国産の場合、2040年までに19兆円のマイナスがある。一方100%風力で補うと電力コストが上昇してしまう。家庭でひと月あたり300円程の影響。家庭への負担はそれほど大きくはないが、産業界への電力コストの影響も考える必要ある。

  質疑応答では、工場立地の必要条件、ローカルコンテンツ規制の可能性、国産風車と海外製風車の国内における競争力などについて議論し、経済効果を発揮しうる工場立地等による雇用創出のためにはGWクラスの国策プロジェクトが必要であること委員が確認した。

3.「洋上風力発電プロジェクトにおける漁業協調のあり方についての検討」
(社)海洋産業研究会 中原裕幸常務理事、塩原泰様

 「洋上風力発電プロジェクトにおける漁業協調のあり方の検討」というテーマで、海洋産業研究会の中原常務理事と塩原主席研究員・研究部長補佐からお話いただいた。

  まず、海洋産業研究会は、洋上風力発電について10年以上前から自主的な研究をしており、運輸省の新エネルギー導入計画策定調査委託や北海道瀬棚町のエネルギービジョン策定等を担ってきたとご紹介いただいた。

  次に、洋上風車の基礎が魚礁として使用可能かという点について、海外のレポートを紹介された。まず、スウェーデンの事例では、全生物数に対して、風車周辺1~5メートル周囲における生物量は、対照区域より多かった。その効果は、20メートル範囲程度であると見られる。魚種としては、ハゼの幼魚が非常に多かったが、それ以外の魚も多く見られ、洋上風車の基礎は集魚装置として機能しているという結論がなされている。一方で、デンマークの事例では、風車の基礎部に集魚効果があるかは確認できなかったものの、周囲の魚や生物の多様性に影響を与えているわけではないという報告がなされている。

  洋上風力発電が設置されてから未だ日は浅く、確定的な結果は出ていないそうである。現在まで、洋上風力発電の基礎部が人工魚礁として機能するといった、明確な魚礁効果は認められていないものの、魚類が騒音やケーブルの電磁波で逃げることもなさそうである。現状ではっきりとしていることは、洋上風力発電の存在は魚類に影響を与えることはあまりない、ということである。

  次に、漁業協調型洋上風力発電の事例紹介をいただいた。北海道瀬棚町では、日本初の洋上風力発電として建設された風車の基礎を使用し、昆布の養殖を行なっている。また、養殖された昆布をウニの餌に利用している。このような取り組みが可能となった背景には、町のビジョン調査の段階から、洋上風力発電建設現場の海域にてウニやアワビを蓄養していた漁業協同組合長が当初から調査委員会のメンバーになり、その意見も取り入れて構想、計画づくりを行なっていたことが功を奏したとのことであった。また、北海道上ノ国町では、風力発電所の電力をアワビ等の増養殖の種苗生産のため、海水温の安定化に使用している。

  続いて、漁業協調型洋上風力発電の構想として、八戸市で海洋産業研究会様が実施された調査報告がなされた。これは、洋上風力発電の発電電力を港湾施設や漁業関連施設に供給すると同時に、風車の基礎を利用し、魚礁としての使用や生簀の設置を提案し、漁業への利益還元を目指す構想であった。ただ、残念ながらこれは諸事情から構想どまりとなった。また、海外における構想では、洋上風力発電の基礎を利用したムール貝やカキ養殖が提案されているとのことである。

  最後に、洋上風力発電プロジェクトにおける漁業協調のアイディアを提示された。直接的な協調パターンとしては、漁業種別の操業形態毎に利用法を考え、例えば、定置網の垣網に風車の基礎を利用する案や、面的な海藻養殖に風車基礎を利用する案が例示された。また、間接的な協調のパターンとしては、傭船などの漁業外収入やアメリカにおけるFishermen's Energyの例を参考にしながら漁業者による発電事業への参加といった案が挙げられた。

  また、まとめとして、洋上風力プロジェクトをテコとした沿岸漁業の振興に向けて、漁業者の意向を含め、海域特性に適合した漁業協調メニューの検討が重要という点が強調された。加えて、漁業操業があまり行われていない海域の活用や、魚礁効果のみならず、洋上風力発電の設置が漁業者及び漁村の発展に貢献しなければならないとの主張がなされた。

  質疑応答では、魚礁効果の地域性、現行の実証実験における漁業協調型の視点の不足などについて議論し、魚礁効果だけとらわれず多角的な視点でのさらなる研究調査の必要性について委員が理解した。

第2部 各論点についてのとりまとめ、第4回に向けた議論

地域的なエネルギーネットワークについて

  地域グリッドは高コストであり、効率性として高くない。風力や太陽光発電の変動を吸収するような仕組み(HEMS、蓄電池等)があれば大規模連携でも風力の導入に貢献するだろう。洋上風力の導入のために、スマートグリッドの施策を進めていくことに地域としてのメリットがあるだろう。また、たとえ大規模連携の枠内であっても、風力等自然エネルギーの立地の効果がスマートグリッドを通して目に見えることは地域にとってプラスの効果をもたらすだろう。

洋上風力発電のもたらす産業効果について

 自治体が風力発電の導入促進策を行うのは問題ないが、目的が産業集積や雇用拡大であるとすれば規模感の点で認識の差異がある。風力発電によるメリットを地域が享受するためには、工場立地が必要であり、そのためには国策として合計でGWクラスの大規模事業を打ち出す必要があることになる。

漁業との協調について

  まず、漁礁効果についてはネガティブな影響がないことは言えるだろう。その一方で、漁礁効果がないと言い切ることは、漁業者の期待を裏切るものであり、洋上風力導入のインセンティブを削いでしまう可能性がある。従って、効果が不明確な現状においては、漁礁効果との因果関係が証明されるような研究が望まれるという言い方が適しているであろう。また、効果は地域や海洋環境によって変動があるため、常に注意する必要があるという点も指摘できる。

  次に、洋上風力発電と漁業の協調について、第一には基礎についての実証実験及び調査の必要がある。その一方で、事業者の発電事業の支障となるような行為は避ける必要があるという点は指摘すべきである。風車のメンテナンスが困難になるような設備や、損壊したら弁償問題に発展するような設備を近くに置くことに、事業者は抵抗を持つであろう。従って、生簀等取り外しできる設備を掛けておく程度なら問題はないが、外すことのできないものや、風車へのアクセスに支障が生じるような設備は避けるべきであるという提案が可能であろう。

以上